中央図書館新収資料展 展示目録
東寺金勝院本祐自筆歌巻 (特別資料室所収)
本祐撰 牡丹花肖柏自筆加点批言
室町中期写 1巻
東寺 金勝院(こんしょういん)の僧・本祐(ほんゆう)が、自作の和歌32首をまとめ当時の代表的な歌人・
連歌師である牡丹花肖柏(ぼたんかしょうはく)へ送ったものに対し、肖柏が加点と批評を付して返したものである。
室町期の歌書の自筆本として貴重であるばかりでなく、
当時の非専門歌人に対する指導内容を具体的に知ることができる点からも和歌史上重要な意義を持つ資料である。
幸若舞曲 山中常盤 (特別資料室所収)
永禄11年(1568)写 1冊
室町時代後期、桃井幸若丸直詮によって創始された幸若舞(こうわかまい)の詞章(「舞の本」)の写本で、
内容は牛若丸が母・常盤の仇を討つという物語である。数本の写本のうち、本写本は書写年代の明らかな最古のものとして、
文学史、芸能史上貴重な資料である。
光悦謡本 袋綴別製新種本 (特別資料室所収)
慶長・元和頃刊 古活字版(一部整版) 41冊
江戸初期刊行の木活字版、いわゆる古活字版(こかつじばん)の中でも、本阿弥光悦によるものは、
「光悦本」「嵯峨本」と称し珍重されるとともに、高い資料的価値を持っている。
そのうち本書は観世流謡本としては最古の古活字本であり能楽研究のみならず書誌学・文献学上も貴重な資料である。
豪華な特製本や上製本に比し、普及版とも言える袋綴本はかえって残存例も少ない。
三体和歌 (特別資料室所収)
伝三井寺暹隆筆
室町中期頃写 綴葉装 1帖
三体和歌とは、春・夏・秋・冬・恋・旅の六題を三つの歌体で詠み分けるもので、
建仁2年(1202)に和歌所で催された歌会である。後鳥羽院、良経、定家、寂蓮といった当代一流の歌人7名が参加、
後代にも大きな影響を与えた。本書はその注釈本であり、室町時代中期の写本である。
東遊日記草稿 八巻 (特別資料室所収)
安政3年6月2日〜同5年6月3日 8冊
豊前国中津と陸奥国盛岡との往還を記録した紀行文。文中、瀬戸内海や大坂城、富士山、
松島などの風景約70図の挿画が淡彩で描かれている。筆者については、中津藩の関係者とも思われるが未詳である。
巻四巻末に「安政四丁巳閏五月二日清書了 仙臺大聖寺食客中 白□(雅ヵ)」との奥書がある。
いまようすがた (特別資料室所収)
時勢粧 巻一〜三、四上、五
維舟編
[寛文12年(1672)3月] 5冊
江戸初期の俳諧師・維舟(松江重頼・1602〜1680)の編纂した俳諧撰集。本来は全七巻本であるが、
刊本の完備したものは現存していない。館蔵本も上記の5冊のみであるが、各冊とも元題簽を完備した美本である。
巻一、二は諸家の句集、巻三は維舟の個人句集、巻四は維舟加点の連句等、巻五は維舟発句の連句等である。
雑誌「世紀」 (稲門ライブラリー所収)
大正12年7月号(創刊号)・8月号
早稲田大学仏文科関係者を中心に出された同人雑誌で、井伏鱒二の『幽閉』(『山椒魚』の原型)が掲載されたことで知られる。
第3号の印刷中に関東大震災が起こり、そのまま終刊したので、この2冊ですべてである。
全国にも2〜3部しか現存しない幻の雑誌である。
野尻抱影書簡 志賀直哉宛 志賀直哉加筆 4枚封筒付 (稲門ライブラリー所収)
「星博士」の異名をもつ野尻抱影(1885〜1977)は早稲田の英文科出身。
星と星座に関する多くの著作をのこしたユニークな文学者として知られる。大佛次郎の実兄である。
この書簡は志賀直哉にあてたものだが、志賀が加筆して浅見淵に回送した興味深いもの。内容は会津八一について。
宇野浩二原稿『今昔の野球』 17枚 (稲門ライブラリー所収)
『蔵の中』『子を貸し屋』などで知られる小説家、宇野浩二(1891〜1961)は明治の末、
早稲田大学英文科に在籍した。人情の機微を描くすぐれた小説を多く執筆したが、随筆や評論にも定評がある。
この原稿は、早慶戦、一高対早稲田戦など昔の学生野球の思い出をつづったもの。
島村抱月筆「抱月・須磨子結婚の誓い」 1巻 (稲門ライブラリー所収)
第二次「早稲田文学」を主宰し、文芸協会や芸術座などの活動によって、明治末年から大正にかけてのわが国の文学・
演劇をリードした島村抱月(1871〜1918)が書いたとされる、女優松井須磨子(1886〜1919)との結婚誓約文。
抱月と須磨子の不倫の恋は、大正文壇を彩る大きなエピソード。抱月の急死と須磨子の後追い自殺で終わりを告げた。
日夏耿之介書画「五鈷金剛杵鈴図」 1軸
詩人・英文学者、日夏耿之介(1890〜1971)は本名樋口国登、長野県出身。明治41年、早稲田大学高等予科に入り、
大正元年、西条八十らと詩誌「聖盃」(のちに「仮面」)を刊行。英文科卒業後ながく母校の教壇に立った。
この図は、書斎に飾っていた金剛杵鈴(密教法具のひとつ)を戯写したもので、「聴雪盧小品」に作歌が載せられている。
ベアトゥス黙示録注解書 (特別資料室所収)
フェルナンド1世写本のファクシミリ版
Beatus, Saint, Presbyter of Liebana, d. 798.
Apocalipsis de San Juan Apostol. Facs. ed.
Valencia : Vicent Garcia Editores, c1992.
スペイン北部リエバナの修道士ベアトゥスが776年頃に著した「黙示録注解書」は、
至福千年説と終末観の雰囲気に満ちた10世紀から13世紀にかけて細密画入りの写本として修道院で盛んに制作された。
今日まで伝存する写本は20点程であるが、その中で唯一修道院以外のために制作されたものが、
カスティリアとレオンの王フェルナンド1世とその后の命によって1047年に書家ファクンドスによるいわゆるフェルナンド1世写本である。
本書にはイスラム美術の影響が見られる豪華な細密画が多数挿入されている。
マドリードのスペイン国立図書館に所蔵されている。展示資料はそのファクシミリ版である。
トリノ=ミラノ時祷書およびトリノ時祷書残闕 (特別資料室所収)
トリノ市立美術館ルーウル博物館所蔵資料のファクシミリ版
Das Turin-Mail ander Stundebuch.Les Feuillets du Louvre et les Heures de
Turin disparues. Facs. ed.
Tokyo : Iwanami Shoten, 1996.
14世紀から15世紀初頭のフランスの王族ベリー公ジャンは美術愛好家・収集家として名高く、
時祷書をはじめ数々の豪華な写本を所蔵した。それらの中で大変数奇な運命を辿り現在トリノ市立美術館とルーヴル博物館に所蔵されている時祷書がこのトリノ=ミラノ写本である。
ベリー公は本書の制作を依頼したが途中で断念した。そのため本書は未完となり、
制作にたずさわった画家たちによって彩飾の完成部分と未完成部分とに分割された。
完成部分はルーヴル博物館の所蔵に帰している『いとも美しき聖母時祷書』である。
未完成部分は15世紀中葉にネーデルランドで完成され、近代になってさらに再分割されてトリノとミラノに分蔵された。
その後、トリノ分冊は1902年に図版が公刊されたが1904年の図書館火災の際に焼失してしまった。
ところが、それ以前にいくつかの部分が盗難にあい、細密画の入った4葉のみが1896年にルーヴル博物館にもたらされていた。一方、ミラノ分冊は1935年にトリノに移され現在に至っている。今回ファクシミリ版で復元されたものがこのミラノ分冊とルーヴル所蔵のトリノ分冊の残闕4葉である。
ヴァザーリ『ルネサンス画人伝』第2版 (特別資料室所収)
Vasari, Giorgio, 1511-1574.
Le vite de’ piu eccelenti pittori, scultori e architettori.
Di nuouo dal medesimo riuiste et ampliate con i ritratti loro
et con l’aggiunta delle vite de’ viui & de’ morti dall’anno 1550
infino al 1567.
In Fiorenze : Appresso i Giunti, 1568. 3 vols.
巨匠ミケランジェロなどに師事した画家にして建築家ジョルジョ・ヴァザーリの主著『ルネサンス画人伝』
はルネサンスの画家彫刻家、建築家の伝記を記したもので、ルネサンス研究における最も重要な資料の一つである。
1550年に刊行された初版ではチマブーエからミケランジェロまでの133人の伝記を収めた。
その後さらに資料を加えて1568年に第2版を上梓し、新たに30人を加え、
さらに画家の肖像画を多数挿入して大幅に改訂増補した。ヴァザーリは本書で美術作品を記し、
その優劣を明らかにし、作家の見方、表現方法などを叙述するばかりでなく、各様式や技巧も説明して、ルネサンス美術全体を詳述した。
ランゲ『反僭主論』初版 (特別資料室所収)
Languet, Hubert, 1518-1581.
Vindiciae, contra tyrannos, sive, De principis in populum populique
in principem legitima potestate.
Edimburgi, 1579 [i.e.: Basel, 1581]
本書の著者とされるランゲはドイツ、イタリア、オランダなどに滞在したフランスの外交官。
イタリアのパドヴァで法律を修め、ドイツではメランヒトンと親交を結び、ザクセン選挙侯アウグストに仕え、
フランスとの平和外交に努めた。彼はStephanus Junius Brutoというペンネームで政治的著述を発表している。
彼の最後の著作とされる本書(ラテン語版)は、教皇権よりも王権が優先する絶対王権を唱えた書であるが実は彼の著作かどうか疑わしく、
ユグノーの政治家モルネ(Mornay, Philippe de, 1549-1623)の作ともいわれている。
出版もエジンバラではなくバーゼルであり、刊行もランゲ死後の1581年であると考えられている。
また、1581年に本書のフランス語版が刊行されるが、内容はラテン語版よりすぐれている。
ロック『教育論』初版 (特別資料室所収)
Locke, John, 1632-1704.
Some thoughts concerning education.
London : Printed for A. and F. Churchil at the Black Swain in
Pater-Noster-Row, 1693.
著者ロックは名誉革命時代の代表的な哲学者・政治思想家。オックスフォード大学卒業後医学を修めシャフツベリー伯の侍医兼家庭教師となり、
政治的にも伯と行動をともにした。1683年名誉革命の年にオランダ亡命から帰国して新政府の官職についた。
そして、1690年には『人間悟性論』『市民政府論』を発表して経験主義哲学と民主政治の原理を説き、
1693年の本書『教育論』では合理主義的・個人主義的な教育方法を明らかにした。彼は教育の意義を、
精神的・肉体的な素質の自然的発展を導き促進することにあるとした。
バークリー『人間知識の原理』初版 (特別資料室所収)
Berkeley, George, 1685-1753.
A treatise concerning the principles of human knowledge. Part 1.
Dublin : Printed by Aaron Rhames, for Jeremy Pepyat, 1710.
アイルランドの哲学者バークリーはダブリンのトリニティー・コレッジで学び、その後聖職についた。
ロックの経験論を観念論に発展させて、存在=被知覚の唯心論さらには有神論に高めた。
本書『人間知識の原理』は彼の初期の作品であり主著。彼ははじめ本書を膨大な体系として計画して、
1710年にPart1を刊行したが、それ以降の原稿を失ったため計画は放棄された。
本書ではロックの抽象概念を唯名論に近い立場で否定して普遍を特殊観念の記号的代表性に求めた。
1732年に第2版改訂版が刊行され初版の論に変更を加えた。
ウォルストンクラーフト『女性の権利の擁護』初版 (特別資料室所収)
Wollstonecraft, Mary, 1759-1797.
A vindication of the rights of women, with strictures on political
and moral subjects.
London : Printed for J. Johnson, 1792.
ウォルストンクラーフトは18世紀末英国の女性著述家。1797年に政治評論家ウィリアム・
ゴッドウィンと結婚し一女を出産するが亡くなった。彼女は、1790年にE.バークが発表した反革命的な
『フランス革命の省察』に対して、直ちに反論して『人間の権利の擁護』を刊行した。本書はその続編であり、
特に女性の問題に焦点をあてたもので、因習的な社会に対して果敢に挑戦した進歩的な作品である。
本書は1792年に語句や文章を改めた第2版が刊行されたが、欧米でもすぐに注目されて、アメリカ、フランス、
ドイツなどで各国版が刊行され大いに流布された。我が国でも早くから紹介され、
1980年に第2版を底本とした翻訳書が刊行され、女性問題の古典として広く読まれている。
館蔵本には少なくとも4−5名の旧蔵者の名前が見られ、よく読まれた跡が数々残されている。
Liberty, Freedam, & Human Right Collectionの一冊として購入。
今井卓爾収集日本近代詩歌書コレクション出陳品案
題名 |
作者 |
出版社 |
出版年 |
新体詩抄初編 |
外山正一 |
井上哲次郎 |
明15.8 |
楚囚之詩 |
北村透谷 |
春祥堂 |
明22.4 |
水沫集 |
森鴎外 |
春陽堂 |
明25.7 |
若菜集 |
島崎藤村 |
春陽堂 |
明30.8 |
地理教育鉄道唱歌1-5 |
大和田建樹 |
三木佐助 |
明33.5-10 |
みだれ髪 |
与謝野晶子 |
東京新詩社 |
明34.8 |
草わかば |
蒲原有明 |
新声社 |
明35.1 |
あこがれ |
石川啄木 |
小田島書房 |
明38.5 |
一握の砂 |
石川啄木 |
東雲堂書店 |
明43.12 |
海潮音 |
上田敏 |
本郷書院 |
明38.10 |
社会主義の詩 |
堺利彦 |
由分社 |
明39.4 |
孔雀船 |
伊良子清白 |
佐久良書房 |
明39.5 |
海の声 |
若山牧水 |
生命社 |
明41.7 |
かろきねたみ |
岡本かの子 |
青鞜社 |
大1.12 |
赤光 |
斎藤茂吉 |
東雲堂 |
大2.10 |
どんたく |
竹久夢ニ |
実業之日本社 |
大2.11 |
印度更紗 |
北原白秋 |
金尾文淵堂 |
大3.9 |
わすれなぐさ |
北原白秋 |
阿蘭陀書房 |
大4.5 |
道程 |
高村光太郎 |
抒情詩社 |
大3.10 |
月に吠える |
萩原朔太郎 |
感情詩社 |
大6.2 |
転身の頌 |
日夏耿之介 |
光風館書店 |
大6.12 |
愛の詩集 |
室生犀星 |
感情詩社 |
大7.1 |
風は草木にささやいた |
山村暮鳥 |
白日社 |
大7.11 |
パンの笛 |
堀口大学 |
籾山書店 |
大8.1 |
食後の唄 |
木下杢太郎 |
アララギ発行所 |
大8.12 |
槐多の歌へる |
村山槐多 |
アルス |
大9.6 |
殉情詩集 |
佐藤春夫 |
新潮社 |
大10.7 |
ダダイスト新吉の詩 |
辻潤 |
中央美術社 |
大12.2 |
春と修羅 |
宮澤賢治 |
関根書店 |
大13.4 |
南京新唱 |
会津八一 |
春陽堂 |
大13.12 |
海やまのあひだ |
釈迢空 |
改造社 |
大14.5 |
死刑宣告 |
萩原恭次郎 |
長隆舎書店 |
大14.10 |
海の聖母 |
吉田一穂 |
金星堂 |
大15.11 |
測量船 |
三好達治 |
第一書房 |
昭5.12 |
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First drafted March 23, 1998
Last revised March 17, 2006