「錦絵にみる近代日本の夜明け」展開催にあたって 早稲田大学図書館 今年もまた“早稲田フェスタin遠州”関連企画として、早稲田大学図書館が所蔵する貴重な資料を御覧いただきます。 多色刷りの木版画である「錦絵」(にしきえ)は、浮世絵とも呼ばれ、よく知られているように、明治になってから外国人によって再評価され、印象派など近代ヨーロッパの絵画に大きな影響を与えました。 錦絵は、練達の職人によって作られる芸術作品であることはもちろんですが、なによりも庶民の間の日常的なメディアとして、大きな役割をはたしたものであったことを忘れてはなりません。黒船来航にはじまる幕末・維新の動乱、文明開化、西南戦争、さらには自由民権運動から国会開設にいたるまでの時代を通じて、その時々のできごとや世相のありようを、庶民の視点でとらえて描かれた錦絵は、歴史の鼓動をいまに伝える貴重な同時代資料といえるのではないでしょうか。 早稲田大学図書館には、写楽や歌麿の名作などはありませんが、幕末から明治にかけて作られた、報道、諷刺的な錦絵が比較的豊富に所蔵されています。歴史にのこる大事件を報じたもの、不景気に対するお上の無策を皮肉ったもの、新しい建物や新開地のようすを絵にしたものなどから、戦争や事件を毒々しい絵で書きたてたものまで、今日見られるマスコミ・ジャーナリズムのほとんどの要素を、これらの錦絵はすでに備えています。そこには当然、大衆の嗜好におもねった誇張や歪曲もあり、事実誤認や根拠のない風聞もまじっていると思われますが、諷刺主義やセンセーショナリズムという点において、今日のマスコミも、そう変わってはいないと思います。 少しの間タイムスリップして、激動の時代に身をおいてみてはいかがでしょうか。 2001年6月