館蔵インキュナブラ
(ヨーロッパ15世紀活版印刷本) Part.1

1.アフロディシアスのアレクサンドロス『命題集』(ヴェネツィア、1488‐89年)
ALEXANDER APHRODISAEUS
Problemata (Tr.: Georgius Valla). Aristoteles: Problemata (Tr.: Theodorus Gaza).
Plutarchus: Problemata (Tr.: Joannes Petri Lucensis).
Venice : Antonius de Strata, de Cremona, 24 Nov. 1488, 18 Dec. 1488, 3 Jan. 1488/89.
Folio. 88 leaves.
310x200 mm.Bound in modern dark brown calf.
Ref.: HC (Add) 658; BMC V 295; GW 860; ISTC ia00387000; IJL 008;Yukishima no.4.
[略語の解説はこちら]

 3世紀初めのアリストテレス学派哲学者アレクサドロスの『命題集』(初版)を巻頭に置いて、アリストテレスとプルタルコスの命題集を合刻した哲学書。各書末尾に奥付があり、1488年11月24日から1489年1月3日までに一書ずつ印刷されたものである。ラテン語訳を行なったジョルジョ・ヴァッラとテオドロス・ガザは15世紀を代表する人文主義者であり、ルネサンスの文芸復興に多大な貢献をした。本書を印行したアントニオ・ダ・ストラータは1481-95年までヴェネツィアで主に神学書の印刷を行なった印刷業者で、本書のような古典学書は少なかった。
 館蔵本は近代に至って汚れを落とすため薬品で漂白され、再製本されている。

2.アリストパネス『喜劇集』(ヴェネツィア、1498年)
ARISTOPHANES
Comoediae novem [Greek]. Ed.: Marcus Musurus, in part. with the Scholia.
Venice : Aldus Manitius, Romanus, 15 July 1498.
Folio. 348 leaves.
319x212 mm. Bound in half modern calf over wooden boards.
Prov.: Fred Schreiber, New York.
Ref.: HC 1656*; BMC V 559; GW 2333; ISTC ia00958000; IJL 024.
[略語の解説はこちら]

  紀元前5世紀ギリシアの喜劇作家アリストパネスの作品9書を収録したギリシア語版喜劇集の初版。本書はヴェネツィアのアルドゥス・マヌティウスによって印行されたもので、ギリシア語版アリストテレス著作集初版などとともに彼の初期の代表作としてよく知られている。本書の編者マルコス・ムスロスはクレタ島出身で、フィレンツェでヤノス・ラスカリスに師事し、後にパドヴァ大学のギリシア語教授になった人文主義者。アルドゥスは若きムスロスにムサエオス詩集やクラストヌス『ギリシア・ラテン語辞典』を編集させ刊行した。
 館蔵本はアリストパネスの古版本を体系的に収集した古典学者F.シュライバーの旧蔵書。わが国では本学の他に明星大学図書館が本書を所蔵している。

3.グーテンベルク『42行聖書』ヴェラム刷零葉(マインツ、1455年)
 
Biblia latina, 42 lines.
[Mainz : Printer of the 42-line Bible (Johann Gutenberg and Peter Schoeffer, about 1455].
Folio. Single vellum leaf (221 of vol. I).
360x24 mm.
Prov.: Heinrich Klemm.
Ref.: H 3031*; BMC I 17; GW 4201; ISTC: ib00526000; IJL 065.
[略語の解説はこちら]

 グーテンベルクは最初の本格的活版印刷書としてウルガータ訳ラテン語聖書を1455年までに完成させた。当時の記録では180部が印刷されたといわれているが、そのうち40部ほどはヴェラム(羊皮紙)に印刷されたとみなされている。完本あるいは完本に近いグーテンベルク聖書は47部が現存しているが、そのうち12部のみがヴェラム刷である。
 館蔵のヴェラム刷零葉は第1巻221葉であり、旧約聖書「歴代志下巻29‐30章」にあたる。19世紀後半ドイツの蔵書家ハインリヒ・クレムが収集したヴェラム刷2葉のうち1葉である。他1葉は現在ダブリンのトリニティー・コレッジの所蔵に帰している。ヴェラム刷は零葉でも極めて稀覯である。わが国では紙刷版上巻完本を慶應義塾大学が所蔵している。

4.ボエティウス『著作集』(ヴェネツィア、1491-92年) 
 
BOETHIUS, Anicius Manlius Torquatus Severinus
Opera.
Venice : Johannes and Gregorius de Gregoriis, de Forlivio, 1491-92.
In two parts, dated: I) 18 Aug. 1492; II) 26 Mar. 1491.
Folio. 256, 96 leaves.
304x208 mm. Bound in quarter modern brown morocco over wooden boards.
2 volumes in one.
Ref.: H3351*; BMC V 341; GW 4511; ISTC ib00767000; IJL 082; Yukishima no.7.
[略語の解説はこちら]

 ローマ帝国最後の哲学者ボエティウスはゴート王テオドリクスに仕えたが、投獄され獄中で名著『哲学の慰め』を執筆し、悲運のうちに生涯を閉じた。本書は彼の著作集第2版である。初版は1487年にヴェネツィアで印刷されたが、現存が確認されていない。第2版は主著『哲学の慰め』が収録された第2巻が初めに印行され、続いて算術、幾何学、音楽論を含む第1巻が刊行されて完結した。本書の印刷を手がけたグレゴリイス兄弟は15世紀ヴェネツィアの最も有力な印刷業者の一つで、神学書や法律書を多数手がけた。
 館蔵本は1冊に合本されたもので、近年に再製本されている。わが国ではかつて南葵音楽文庫に所蔵されていたが現在の所在は不明。また、慶應義塾大学が第1巻の62葉分だけを所蔵している。

5.ボエティウス『算術提要』(アウクスブルク、1488年)
BOETHIUS, Anicius Manlius Torquatus Severinus
De institutione arithmetica.
Augsburg : Erhard Ratdolt, 20 May 1488.
Quarto. 48 leaves.
212x147 mm. Bound in modern boards.
Ref.:HC 3426*; BMC II 381; GW 4586; ISTC ib0082800; IJL 087; Yukishima no.5.
[略語の解説はこちら]

 ボエティウスの算術書初版。ヴェネツィアで活躍し印刷術発展に多いに貢献したエアハルト・ラートドルトがアウクスブルクへ帰郷した後に手がけた小冊。木版イニシャルを効果的に使用したラートドルトらしい作例である。
 館蔵本はボード装に改装されたもの。我国では他に金沢工業大学が所蔵している。

6.コルセッティ『ニコロ・テデスキの著作についての索引』
(ヴェネツィア、1499年)
CORSETTUS, Antonius
Repertorium in opera Nicolai de Tudeschis.
Venice : Bptista de Tortis, 28 June 1499.
Folio. 282 leaves.
415x278 mm. Bound in contemporary blind-stamped brown calf over wooden boards.
Fisrt initials in red and green, and others in red.
Ref.: HC 5772*; BMC V 331; GW 7784; ISTC ic00933000; IJL 114; Yukishima no.9.
[略語の解説はこちら]

 コルセッティは15世紀シチリア出身の教会法学者でボローニャ大学で教鞭を取り、1500年以降は教皇庁の聖庁控訴院の裁判官を務めた。本書は同じシチリア出身の大法学者ニコロ・テデスキの著作を参照するための索引の第2版。初版は1486年にヴェネツィアのアンドレアトッレザーニによって印行された。教会法関係の語句がアルファベット順に配列されて、語句の簡単な説明があり、出典が示されている。ニコロ・テデスキは法王グレゴリウス9世の勅書注釈をはじめ多数の著述を行ない、シエナ、パルマ、ボローニャ、ローマで教鞭を取り、後にパレルモ大司教に任ぜられた。
 館蔵本では最初の2箇所の大きなイニシャルが赤と緑で装飾され、その他のイニシャルは赤のルブリケーションが施されている。装丁はルネサンス時代の空押し子牛革装。

 
[目次に戻る] [展覧会TOPへ戻る] [早稲田大学図書館TOPへ戻る]
(c) Waseda University Library. 2002