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5.滝沢馬琴書簡 |
殿村篠斎宛 天保五年(一八三四)二月十八日 1巻 ヌ6 7174 |
[解説]
滝沢馬琴(1767-1848)が交流のあった国学者殿村篠斎(安守,1779-1847)にあてた長文の書簡。この時馬琴は68歳、老境に達し右目が見えなくなってきている。この後、不自由な中『南総里見八犬伝』等の執筆を続けるが、ついに両眼を失明、長男の嫁、路の手を借りて完成に至る経緯は有名。日付は正月となっているが、2月の誤記。
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[原文 ] (前略)
一、 野生去年中よりつめて著述ニ取かゝり/候へハ、右の眼俄ニいたミ候事有之、/筆の運ひ見えわかぬ事折々有之、/又その翌日ハ左もなく候間、さのミ心を/とめ不申候処、当月ニ至り右眼一向ニ/見えす、只左眼にて用事を弁し候、/左を閉候へハ少しも見えす、うち見ハ/両眼とも平生ニ不替候様ニ候へとも/偏枯いたし候哉、四五十年昼夜/眼力を尽し候故老樹の片枝枯候/様ニ成候歟、何分一眼ニてハ心細く覚候、/一両日前より忰療治ニてあらひ薬/眼薬等いたし候へとも、同様に御座候、眼科の/巧者ナルニ療治うけ可然よし、忰/申候得とも、とてもかくても古家の造作ニて/そのかひありかたく候ハんと存候故打捨、/眼科ニもかゝらす候、当分眼を休せ候様/忰いさめ候へとも、筆硯と読書を/廃し候ては、一日もくらされす活/かひもなく候間、尚如此長文を二通/桂窓子分とも二日二夜かゝり候て/認候、かく認候内もおほろけにて筆の/運ひ見えわかす成候事度々御座候、/もし著述なと出来かね候様に/成候へハ大不経済ニ御座候、弱冠より/一たひも眼疾を患ひ候事無之候ひしに、/見ること久しけれハ曇るといふ古人の/金言今さら思ひ合し候、御賢察/可被成下候、頓首/正月(ママ)十八日再白 著作堂/篠斎大翁
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