早稲田大学図書館所蔵貴重資料
「当世書生気質」挿絵指定画
坪内逍遥筆/請求記号: 文庫14−B67
当世書生気質
坪内逍遥画 1軸 24×33cm
1885(明治18)年から翌年にかけて刊行された『一読三嘆当世書生気質』(全十七冊)の挿絵指定画として著者の
坪内逍遙が自ら描き、画家の
長原止水に送った珍しい資料である。
本学図書館本間久雄文庫のなかに「塾舎の西瓜割り」「池之端の出会い」「未来の夢」と題された3点が所蔵されている。
軽妙な筆致の墨絵のなかに小道具や背景などについての細かい指示(「未来の夢」は朱、他の二点は墨書)が書き込まれている。
実際に出版されたものを見ると「池之端の出会い」は第六回、「塾舎の西瓜割り」は第九回に登場している。
レイアウトなどに多少の変更はあるものの、逍遥の指定にほぼ忠実な形で挿絵が描かれているのがわかる。
『当世書生気質』は、小町田粲爾と芸妓田の次との恋愛を中心とし、小町田の親友である守山と吉原の遊女顔鳥のロマンスも書かれている。
当時の書生たちの生活を写実的に書き、江戸の戯作から明治の小説へ移行する先駆的な作品であり、
逍遙の著作『小説神髄』の理論を作品として具現化したものといえる。また、
書生の台詞の中に多数英語を使ったものが見られるなど、文明開化の時代が反映されていて興味深い。
坪内逍遙
1859 〜 1935。小説家・評論家・劇作家・翻訳家・教育家。『小説神髄』以降、近代日本文学の指導者となるが、二葉亭四迷の登場の後は小説から離れ、演劇革新に専念する。1891年には『早稲田文学』を創刊。なお演劇博物館は1928年に逍遙の業績を記念して創設されたもの。
長原止水
1864 〜 1930。画家。東京美術学校教授。洋画を小山正太郎・原田直次郎に学び、のちに白馬会に加わった。はじめ諷刺絵雑誌『とばゑ』を刊行するなど、諷刺絵・漫画・装飾画などに特異な才を見せたが、やがて東洋的な味わいを持った穏健な画風にいたった。逍遙の挿絵以外に島崎藤村の詩集の装丁をするなど文学面への関わりも深い。
* このページは、早稲田大学学生部発行「早稲田ウィークリー」所収「早稲田の貴重書」に若干修正を加えたものです。
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First drafted Febrary 18, 1998
Last revised November 21, 2005