早稲田大学図書館所蔵貴重資料
「牛込鶴巻町」原稿
井伏鱒二筆/請求記号: ヘ14-8086
「牛込鶴巻町」原稿
井伏鱒二撰、自筆。1947(昭和22)年。1帖、29.4×21.1cm。
小説『山椒魚』や『黒い雨』で文学史にその名を残す作家であり、本学OB・早稲田大学芸術功労者の井伏鱒二(1898〜1993)が、雑誌「展望」(筑摩書房)・1947(昭和22)年9月号に発表した『牛込鶴巻町』の、自筆原稿である。
『井伏鱒二自選全集』(新潮社・1986年刊)第4巻の「覚え書」によると、この『牛込鶴巻町』は「学生時代のことを書いた。これは後の『荻窪風土記』の序章に該当するものだ。後から可なり手を入れた。迂闊なことを書いてゐたので、後で訂正加筆しながら書き直した」という。
同全集収録の際に、かの『山椒魚』の終章部分が大幅に削除されて論議を呼んだことも記憶に新しい。井伏は作品発表後の加筆修正が多いことで有名だが、それも彼が作品に求めるところの高さにあるといえるのではないだろうか。この作品もその例に漏れず、『井伏鱒二全集』第3巻(筑摩書房・1964年刊)に収録の際に大幅な補筆がなされている。
さて、井伏は1917年本学予科に入学後、23年に中退するまでの6年間、そしてその後、27年に下井草に居を構えるまでの4年間を早稲田界隈の下宿屋を転々として暮らしていた。年齢で見ると19歳から29歳までの、ちょうど青春時代をこの早稲田の地で過ごしたことになる。
この『牛込鶴巻町』は当時下宿していた牛込鶴巻町、そしてそこに住まう人々との交流、人間模様を描いたもの。下宿屋・南越館や薬屋・完生堂のおかみさん、大隈重信…などのエピソードが次々と綴られ、井伏の想いは尽きない。まさに彼の青春時代が凝縮されている作品であるといえよう。
本学の図書館に所蔵されているのは、1947年の初出の際の原稿で、抹消・挿入を繰り返した推敲のあとや「本文8ポ(※活字の大きさの指定。8ポイント)」などの指定が書き込まれている。大正から昭和にかけての本学の様子を知る上でも非常に興味深い資料だ。
* このページは、早稲田大学学生部発行「早稲田ウィークリー」所収「早稲田の貴重書」に若干修正を加えたものです。
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First drafted Febrary 18, 1998
Last revised November 25, 2005