宝巻は中国の説唱文学の一種である。唐・五代(7〜10世紀)に使用された変文(仏教宣布に用いられた語りものの文体)の系統を引く。宝巻のほかに巻・宝経・科儀・宝懺などの名称をもつ。宝巻の呼称が用いられるようになったのは元末明初(14世紀)からで「宝貴の経巻」の意であるといわれる。初期においては体裁・内容ともに仏書の一種と見るべきものだったようだが、明末清初において新興宗派の摂理を大いに喧伝するメディアとしても機能した。清朝の権威が確立し、嘉慶十年(1805)白蓮教徒の乱が鎮圧されるに至り、このような「教派宝巻」は衰退した。これを転機とし、宝巻は清朝の道徳教化の政策に添うように勧善懲悪の物語を説く、庶民文芸的なものとなっていった。 宝巻の構成は、三種の文体が交互に組み合わさっている。すなわち散文による講説の部分、詞調名をもつ曲詞の部分と、五字・七字・十字の韻文部分からなる。その内容は、仏教や道教の教義を説いたもの、主人公の修行と成仏の因縁を語るもの、各種民間宗派の布教用のもの、小説や民間伝承などの物語を題材にしたものなどがある。『珠塔宝巻』は、弾詞から改作されたものであり、民国期に入り作られた宝巻の中には、『繪図姉妹花宝巻』のように当時一世を風靡した映画を題材に作られたものもある。 |