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故・井伏鱒二氏は、近代日本文学におけるきわめて大きな存在です。
いまさらあらためて言うまでもありませんが、大正八年(一九一九)、早稲田大学文学部仏文科一年のとき、郷里で書いた習作の短編(そのなかには、のちに「山椒魚」と改題される「幽閉」もふくまれていました)を、親しかった級友青木南八に送ったころから数えると、なんと七○年以上の期間、たゆみない創作を続けています。その創作活動期間の長さだけでも驚異です。
大正の末から昭和のはじめにかけて文壇に出て以来、井伏さんはつねに第一線にあって、ここに展示されている数々の本を、つぎつぎと世におくりました。
ここに展示した書物、原稿のほとんどは、昭和六十年ごろ、井伏さんご自身から母校である早稲田大学に寄贈されたものです。いまは、当図書館に置かれた「稲門ライブラリー」のなかの、たいへん貴重なコレクションの一つとなっています。
井伏さんはしばしば、大学時代のこと、さらに早稲田界隈で過ごした青年期のことを、なつかしい筆致で作品のなかに書いています。いつまでも早稲田人の心にのこる稲門作家、それが井伏鱒二である、ということができると思います。
このたび、日本近代文学会の早稲田大学での開催を記念して、この展示を構成しました。どうぞごゆっくり井伏文学の世界をお楽しみ下さい。
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