「早稲田大学創立125周年記念シンポジウム:角田柳作—日米の架け橋となった“Sensei”—」開催報告
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アメリカにおける日本学の形成と角田柳作(4)010203040506070809
和田敦彦 早稲田大学教育・総合科学学術院准教授

これらの特徴を最初にイエールとハワイの例で話したいと思います。イエール大学の事例なのですが、イエール大学の場合、キーパーソンとなるのが朝河貫一という人物です。朝河貫一については、早稲田大学、当時は東京専門学校ですが、彼もまたそこの出身です。明治28年(1895年)になりますが、東京専門学校を卒業して、その後アメリカに渡り、ダートマス大学、その後イエール大学に学び、そこで教鞭をとることになります。1906年、今お話ししているのは20年代なので、これはかなり早い段階です。1906年の段階で朝河貫一はアメリカの議会図書館、また彼が教えているイエール大学、この両大学にこれからは日本語図書が絶対に必要であると強調して、日本語図書購入を行います。ですから、角田柳作もかなり早い段階で日本語図書の購入に尽力した人物になると思います。この予算に関しては議会図書館、イエール大学それぞれの機関が出す形で図書収集にあたっていました。実際に本を集めるにあたっては、当然朝河貫一のみでは無理ですので、実際には日本の帝国大学で史料編纂事業にあたっていた三上参次、あるいは黒板勝美の協力を得ながら図書収集を行っています。ちなみに20年代ですが、日本でイエール大学の関係者で作っているイエール大学日本人会を軸に日本博物館構想を立ち上げていくことになります。そして日本国内で基金作り、つまりお金を収集してイエールに日本の博物館を作ろうという活動を20年代には展開していくことになって、日本での図書収集活動が行われることになってきます。

一方、ハワイ大学ですが、ハワイ大学は1922年に日本語コースが立ち上げられることになります。日本からそこに行くのが同志社大学の原田助です。彼は日本文学の教授として迎えられることになりますが、ここでも最初に問題になってくるのが、一体どうやって日本語図書を集めるのかという問題です。やはり原田の場合でも1926年に日本に帰国した折にどのように本を集めるかということで考えて、当時日米協会や国際連盟協会の長としても活動していた渋沢栄一に相談することになります。渋沢栄一が日本語図書を収集するためにどのようなことを提案したかというと、募金を募ったらどうかと。つまりハワイの日系人社会に募金を募って、あるいは日本国内にも訴えて、お金を集めて基金を作ったらどうかということを話すわけです。それと同時に渋沢自身もお金を提供することになります。実際その後原田はハワイに戻って、日系紙もあるわけですから、地元新聞を通じて日本語図書の必要性を訴えていくわけです。こういった中でハワイ大学の日本語図書館の基盤ができあがってくることになります。ちなみに、このときだけではなく、ハワイ大学では日本語図書館ができあがってくる初期から数多くの日系人による寄贈が大きな役割を果たしています。ちなみに角田柳作に関係してつけ加えますと、角田柳作をハワイに呼ぶのは今村恵猛(いまむらえみょう)という人物なのですが、彼もまたハワイ大学の蔵書を形作っていくための図書寄贈を行った大きな人物の1人でもあります。

以上のように20年代を特徴づけているのは、日米国内の日本人に、つまり日本国内あるいは米国内での日本人に関係するアメリカ人もいますが、理解と募金を募って、人的ネットワークを駆使しながら日本語図書館を作り上げているということになっていきます。この人的ネットワークはしばしばこの活動の中で重なり合っています。つまり角田柳作の図書収集活動をはじめとして、今までご紹介した図書館の日本語図書収集作業にも重なり合っている点でもあるわけです。例えば、姉崎正治という人物がいますが、彼はハワイ大学の日本語蔵書を作る際に、日本国内で本を選ぶ作業を担当しています。ただ、同時に姉崎正治はハーバード大学に招聘されて日本学というよりは仏教学や中国学を中心にですが、教えていまして、同時に彼自身がハーバードにかなりの分量の日本語図書を寄贈しています。渋沢栄一は先ほど申しましたようにハワイ大学の日本語蔵書を構築する際に助言と資金を提供していくわけですが、同時に角田柳作が後にコロンビア大学の蔵書を構築する際に、資金提供する人物の1人ともなっています。それに先ほどご紹介したイエール大学の日本語図書を構築していく際に朝河貫一が大きな役割を果たすわけですが、同時に黒板勝美に図書収集、あるいは本を選ぶ作業を手伝ってもらうことになります。黒板勝美は角田柳作がコロンビア大学に後に移っていく日本語図書を収集する際に、その本を集めるための委員会を日本に作っていくわけですが、その中の主要メンバーにもなってくるわけです。


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